おそらく日本初であろう顧客個別対応型の歯科技工所である。
これまでの歯科技工所は歯科医から依頼されて義歯や補綴物を制作するいわば裏方的な業種であった。アメリカで実績を積んだクライアントは自ら顧客と対話しそれぞれの個性に合わせた最適なカスタムメイドをつくる新しいラボをつくりたいと考え我々に空間デザインを依頼した。
開設のために選んだスペースは表参道に程近い商業施設の一角であった。物販店を前提に設計されたそのスペースは壁面のほとんどがカーテンウォールのガラス張りであった。このままでは細かい手作業をする場としては日差しが入りすぎ、顧客が出入りする場としてはプライバシー面に問題があった。
我々はガラスに面してデスクを配置し、方立のピッチに合わせてパーティションを設置することで作業ブースとして適度に区切るとともにサッシの存在感を消した。そしてパーティションをぐにゃりとねじった形状にすることによって外部からの視線を緩やかに遮りながらラボ内への日射を柔らかくコントロールし、さらにはデスクでの細かい作業をするのに籠り集中できるコンパクトなブースをつくりだした。
ミクロン単位の造形や色彩を扱う歯科技工士は言わば彫刻家のような存在である。曲面を描いた純白のパーティションが林立する姿は彫刻が立ち並んだようにもみえる。それはこのラボの磨きぬかれた技術力を発信するファサードとしての役割も担っている。
- 業種:歯科技工所
- 住所:東京都港区北青山
- 広さ:約18.1坪