湖畔の回遊性を高める山中湖村のまちづくりにおいて、観光と地域の拠点を兼ねた平野の交差点の開発はその象徴であり、山中湖村と富士急行が連携する産官学連携プロジェクトである。本計画では、かつての中心をこの場所に取り戻すために、風景に内在する「ヒト・モノ・コト」の関係を再編集し、歴史と未来が連続する新しい風景の構築を目指した。
・風景に導かれた大屋根と三角木軸グリッド
風景に埋め込まれた歴史性と社会の転換期にさしかかった不確定性のハイブリッドによって、大きな変形切妻屋根と、屋内外に広がる木軸三角グリッドの構成が導かれている。
三角グリッドは、南北広場とバス待合所を結ぶ軸線,富士山とけやき広場の軸線から導かれ、遠近の風景を接続している。また、この軸線によって240 度開かれた内部空間は、前面道路に対して全てが正面のような立面を構成している。
木軸グリッドを構成する基礎・柱・横架材は屋内外にバラバラに展開している。そこに、間仕切り壁や下がり天井、カウンターや小上がり、サインや照明など、様々な部位や素材を必要に応じて取付けることで、同時多発する様々な用途や、人々の自由な留り方を受止めている。この木軸グリッドを、「森の段床」(本誌住宅特集1808)のように増改築の拠り所として展開することで、地域住民が必要に応じて自ら編集できる公共空間の可能性を提案している。
また、気候やイベントなどに応じた様々な利用状況に大らかに応答するため、屋外/ 庇下/ 半屋内/ 屋内を連携させた、外気と空調のグラデーショナルな温熱環境を実現した。特に、夏と冬では利用者数が大きく変化するため、環境に応じて活動範囲が大きく伸び縮みする建築の可能性を提示している。
・micro public networkという手法
山中湖村では、本計画のような100㎡程度の小規模拠点を複数設置し、それを連携させることで村全体の活性化を目指している。このような手法をmicro public networkと名付け、変化に敏感に反応する5000人(近隣住区)程度の人口スケールを持った市町村で展開している。段階的な開発と小規模な投資によって、歴史的な風景を継承しながら、モビリティーや情報のイノベーションを想定したネットワークで都市的な利便性をアップデートし、地方が優位性を持つ新しい社会に導くことができるのではないかと考えている。
これは、縮小化社会において地域を大きく進化させる試みであると同時に、小さな建築群によって、日本のグランドデザインに寄与する挑戦でもある。
- 業種:バス待合所・観光案内所
- 住所:山梨県南都留郡山中湖村平野
- 広さ:32.21坪